お湯のぬくもりの感じ方 『上の湯』のお話 下段
群馬県:桐生市にふたたび立ちのぼった湯けむりと笑顔
2021年7月、一軒のお風呂屋さんにふたたびのれんがかかりました。その名は上の湯。お風呂に入る楽しみ、そのひと時の裏側には釜の火にも負けない熱い想いがありました。
お風呂屋さんという生き方を決意された津久井さんご夫妻。若いご夫婦が家業を継ぐと言うことですでにさまざまな方面で紹介されていますので、今回は皆様石鹸として、上の湯という空間に込められているお二人の真剣な気持ちをすこし深掘りしてお聞きしました。
たくさんのお話を聞かせていただいたので、上の湯の特徴でもある浴槽にちなんで、上段・下段の2回にわたってご紹介します。
今回の下段ではお二人の奥底にある想いと、それが上の湯でどう感じることができるのかをお伝えします。
読まれた後では、みなさまのお風呂の楽しみ方、感じ方が変わるかもしれませんよ。
「家族みんなで入れるお風呂」にしたい
私たちが上の湯を継ぐにあたって、なるべく長く続けたいと思いました。先代の時はご高齢の方が多く、お子さんのお客さんが少なかった。長くやっていくためにも若い方も含めて広い世代の方に楽しんでいただきたいと思ったんです。
お湯の温度もこの辺りのお風呂屋さんの中では低めの42〜43℃。お子さんも入りやすいような温度にして、番台前のスペースで駄菓子なども置いています。
お客さんと同時に、自分たちも長くあり続けることのできる形にしたいです。たくさんの方に知って楽しんでもらいたい。親子でも夫婦でも、じいちゃんばあちゃんでも、世代の上から下まで「家族で」入れるお風呂にしたいと言う目標です。
ウチは、熱くて入れなさそうなお客さん(特に男湯での男の子が多いそうです)がいたらガラガラと戸を開けて「水出していいよ〜、うめる?笑」「下の段だったらいいか」なんて声かけたりします笑
入りにくかったらうめて入りやすいようにするのもアリと笑
今、こういうお風呂屋さんを体験することが難しいと思います。私も小さいころはスーパー銭湯に行くことはあっても町のお風呂屋さんに行くことはなかなかなかったので、今のお客さんには小さいころから体験してほしいなと。
毎日じゃなくてもいいんです。「浴育」じゃないですけど、大きいお風呂を楽しむということを知ってもらうだけでも、一回だけ体験してもらうだけでもいいんです。
自分達がいいお湯ですよ、と言えるお風呂にしたい
あついお湯が好きな方には少し物足りないと感じられるかもしれませんが、私たち自身がこの温度が好きなんです。自分たちが気持ちいいと心から感じて、「いいお湯ですよ」と言えるようなお風呂にしたいです。
好みなんですけどね笑
この辺のお客さんはあついのが好きな方が多いんです、あつ湯を希望される方もおられますが、「すみません、僕らこの温度が好きなんですよ〜」って笑
他にも中庭のスペースなんかサウナスペースにちょうどいいんじゃないか、露天風呂は?などというご意見もありますが、「ウチはできません、お湯のみでやっていきます、見えているものがうちのすべてです」と。
ウチならでは、のお風呂にしたい
*うえにゃんやその他グッズなど、その他上の湯でされていることのアイデアは若女将、若旦那、どちらが発案されているんですか?
最初から、自分たちオリジナルのものはなにか創りたいねと話していました。うえにゃんも上の湯のロゴも、地元のデザイナーの友達にお願いしてつくってもらいました。
アイデアは、お互い思いついたら恥ずかしがらずになんでも言い合おうと決めています、思いついたらスグに「次コレやりたい!」って、風呂掃除しながらでも笑
仕切り越しの反対側でそれを聞いて「今!?」って笑
*中でも精力的にされていて印象的なのが軒先やガレージで開催しているいろんなイベントです。いろんな企画ができる軒先のスペースは素敵ですね。
このロケーションは他ではなかなかない、強みだと思っています。イベントでキッチンカーなどにきてもらったりする中で、交流も広がってきています。いろんな知識や情報ももらえています。
お子さん含めたいろいろな人が楽しめるように考えています。他のお風呂屋さんがあまりされていないようなことをしてみようと思い、声をかけてみたら皆さん来てくれました、本当に好評なんです!
他には、身近なお店や独自なものとコラボするなど、もっと「ウチならでは」を追求した名物のようなものを作りたいなと思っています。
いかにお風呂はお風呂のまま続けながら、その周りを創っていくかを考えています。経営が回らないとやっていけません。
お風呂屋さんが軸。やっていけるんだぞ
桐生市という地方のちっちゃいお風呂屋さんでも、やっていけるんだぞということを見せたいと思っています。
上の湯を継ぐという話を周囲にした際、厳しいんじゃないか、とかそんなに甘くないなど言われましたが、やっていけるんだぞというところを見せたい、その気持ちが僕らの根幹にあります。
何をするにしてもお風呂を軸に考えていきたいというところからスタートしました。
他の商売にした方がいいんじゃないかなどのご意見もありましたがそこは絶対に譲れませんでした。お風呂屋さんなので、お風呂という点に関しては絶対にブレたくない。
最初から意識していた「ウチに来たからこそ」というものを今後もやっていきたいので、今までオリジナルのものを作ったり、皆様石鹸を置いたり、力を入れていろんなアイデアを形にしてきました。どこにでもあるものじゃないものがいいです。
そうやって上の湯を楽しんでもらって、最後に「いいお湯でした」、「ウチのお風呂が好き」って言ってもらえたら・・・
*お話を聞かせていただいたあと、もちろんお風呂に入らせていただきました。お二人の言葉と気持ちがお湯の中に溶け出しているようで、上がった後もず〜っと心と身体に温もりが残っていました。
お風呂。生活の中に当たり前にある1シーンですが、そこに関わる人の想いを想像してみると、またいつもと違った味わいを楽しめるかもしれません。それは、石けんにも同じことが言えるような気がしました。そんな石けんをつくりたいなあ、そして上の湯さんのようなお風呂屋さんで使ってもらえたらうれしいなあ、と思いました。
上の湯さん、ありがとうございました。
これからも応援させていただきます。
また、お風呂に入りにきますね。(了)