淡路島 岩屋 レトロ銭湯 扇湯 インタビュー
銭湯のお仕事は大変だけど番台に座ってお客さんとお喋りするのがなによりも楽しい。
扇湯さんは淡路島 岩屋港から徒歩で数分のひっそりとした商店街の中にある。薄水色の壁に赤い文字で『温泉』と書かれている。昔風の洋館建てで壁の装飾やアーチ型の入り口がなんとも言えない懐かしさを醸し出しています。扇湯さんとは皆様石鹸を介した不思議な縁で繋がりを持つことができ、今までにないかたちでの石鹸の導入に結びつきました。
皆様石鹸は昭和30年に20円石鹸として誕生し、当時は銭湯でも販売していました。時代の流れの中、銭湯がどんどん減っていくように皆様石鹸も製造を中止していましたが、時が経ちフェニックスの70周年を機に皆様石鹸を復刻しました。人と距離を持つことを課せられた今、銭湯や石鹸が持つ温かみ、安心感に改めて気づいてもらえたらいいなと思います。
『扇湯』をきりもりしている3代目の女将(おかみ)船橋富美子さんと銭湯を愛し、関連する本の編集や出版をされている松本康治氏に扇湯の歴史や銭湯への想いをインタビューさせていただきました。
Q.女将さんが扇湯の仕事を手伝い始めたのはいつ頃からですか?
A.お風呂の湯を沸かす全自動のボイラーの導入がきっかけでした。
私は岩屋で生まれ結婚前は島で幼稚園の先生をしていました。主人は公務員で嫁いだときは、姑が店の切り盛りをしていて、お手伝いさんがおりました。お風呂は主人の伯父が石炭や薪をくべて炊いていたんですが、しばらくして全自動ボイラーを導入することになったんです。その時「あなたもお風呂が炊けるように使い方を覚えておいてほしい」と言われ、それから扇湯のお仕事に関わり出したんです。30歳くらいだったかな。
店内は懐かしさに溢れ、古い扇風機やポスター等が女将さんが嫁いで来た頃の古き良き時代を物語っているようです。
当時は常連さんも多く、それはそれは忙しかった。
その頃はお風呂がない家もまだまだ多くて家族連れでお風呂に入りに来る常連さんがほとんどでしたね。扇湯での毎日は忙しく、番台に座るようになってからは、脱衣所で服を脱いだりしている常連さんたちと毎日おしゃべりをしたりするのが楽しかったですね。リニューアルした今は脱衣所と番台が分かれたのでお客さんがお風呂から上がってきたときにお話ししています。
ドライヤー。お風呂から上がって、ここで髪を乾かすのかな。この椅子、すごく座り心地がよくて落ち着きますよ。でも乾いたときのヘアスタイルはどんなかんじになるんだろう・・
Q.扇湯をやっていて苦労されたことは?
A.「お客さんのことを思うとやっぱりやめられない」そんな思いで何度もピンチを乗り越えてきました。
扇湯は私が嫁いだすぐの頃オイルショックによる燃料価格の高騰で苦しい中、お風呂を楽しみに来てくれる常連さんがいるのでなんとか続けていました。そんな中、阪神淡路大震災に見舞われて扇湯の建物も被災したんです。私が番台に座るようになった3年後の出来事でした。主人と親戚で話し合って一時はやめる覚悟をしたのですが、いざやめるとなったら、今までお風呂に入りに来てくれたお客さんのことを思うと、やっぱりやめられないと踏みとどまったんです。
扇湯は2016年の映画『 あったまら銭湯』の舞台となった。女将さんは、『扇湯の記念に残してもらえればいいわ』という思いで引き受けたそうです。淡路島の銭湯を舞台にした切ない恋の物語でした。岩屋の街角やリニューアル前の扇湯のお風呂や脱衣所などが映っています。
震災後、お客さんの数が激減。
被災した家を修復する際、各家庭の家にお風呂が備わったのが要因でした。
今までお風呂に入りに来てくれていた家族連れの常連さんがぐっと減り、やっぱり大きなお風呂にゆったりと入りたい というお年寄りがぱらぱらと来てくれるだけに。やっぱりお客さんが少ない日はしみじみと寂しい気持ちになるんです。
極め付けはボイラーが故障。もう無理かな。
業者さんにも手に負えない状態でいよいよ駄目かなという時、たまたま訪れた松本さんが「やめんといて」とあっちこっちの業者に修理を頼んでくれたんです。バーナーは着くんですが、不完全燃焼ですごい煙が出てもう諦めかけてたけど、「駄目もとで最後にもう1回」と着けてみたら煙が止んだんです。私のやめたくない本心と松本さんの銭湯への想いが届いたんかなあと思っているんです。
銭湯の命、ボイラー。女将さんと松本氏の祈るような想いがボイラーに伝わったのでしょうか。
Q.松本氏をはじめとした島風呂隊の皆さんとの出会いで変わったことは?
A.松本さんの本「レトロ銭湯にようこそ」に載せてもらってから、銭湯マニアの中では有名な銭湯のひとつになって、いろんな所からお客さんがお風呂に入りに来てくれるんです。
島風呂隊の人たちが懸命に扇湯を復活させようとしてくれています。扇湯のリニューアルやSNSの発信で新聞にも取り上げてもらったりしたおかげで、土日には関東をはじめ北海道や九州まで日本中からたくさんの人が扇湯に興味を持って来てくれるようになってきました。
松本氏の著書。日本中のレトロ銭湯をめぐり書き下ろした銭湯マニア必読の『レトロ銭湯へようこそ』『旅先銭湯』シリーズ。
Q. 扇湯の特長といえば何ですか?
A.ドーナツ型の浴槽になっていて向かい合って座るんですね、お湯を囲んで知らない人とでも自然とおしゃべりができるところかな。
お湯の温度は42.5℃でちょっぴり熱めなので、いきなりは入りません。小さい方の湯船に入ってお湯に身体をならしてから、大きい湯船にゆったりと浸ります。私もずっとそうしてきてます。リニューアルしてからは岩屋温泉から引いた源泉100%の水風呂もありますので、熱いお湯と交互に入ると長〜くゆっくりお風呂を堪能できます。
女湯はピンクのタイル、男湯はブルーのタイルで、どちらもドーナツ型になっています。フランス人の銭湯大使ステファニーさんが訪れた際、扇湯を「コミュニティのお風呂」と紹介されたそうです。湯船を囲み、お風呂の湯を汲み出して洗うのも扇湯ならではの入り方。自然と会話も弾みますね。
リニューアルの際に松本氏がこだわった温泉水100%の水風呂。入らなきゃ損。すごく気持ちいいのと、入浴後の肌は瑞々しく、すごく気持ちいいそうです。
季節の野草を使った薬草湯も楽しみのひとつです。今日はヨモギの葉を入れてますが、里山の竹炭の湯や季節によって柚子湯や菖蒲湯なども美容と健康にとてもいいと思いますので是非入っていってほしいです。
野草を袋にぎゅぎゅっと袋に詰めた薬草湯。とってもあったまりそうです。
無くしてしまってはいけない日本の文化。
「銭湯は日本の文化」と言われています。銭湯がどんどん少なくなっていく中、日本の銭湯文化を残すためにも島風呂隊の皆さんに力を借してもらいながら、今、自分にできることや自分の目の前にあることをできるだけ続けていきたいと思っています。
扇湯の時を刻んできたねじまき時計。今もしっかり動いています。島風呂隊の皆さんといっしょに扇湯の新しい歴史を新たに刻んでいくことでしょう。
扇湯の再建に大きく関わった島風呂隊について、結成の経緯や活動について島風呂隊代表理事の松本氏にお伺いいたします。
Q.松本氏から見た銭湯の魅力とは。
A.銭湯は普段の暮らしにちょっとした旅気分を味わえる場所だから。
銭湯に行くのは家の風呂よりも圧倒的に気持ちがいいし楽しいからです。家の風呂は楽しくないので5分と入っていられない。銭湯の楽しみのひとつは、行きつけの銭湯ではない銭湯へ行く時、回りが地元の言葉でしゃべってるのを『よそ者』としてお風呂に浸かって聞いていると、ちょっとした旅気分を味わえる。そしてその後、近くの居酒屋で飲むビールはいつもより3倍おいしい。そういったところがぼくらが伝えたいと思う銭湯の魅力です。
お風呂が趣味でお風呂屋さん巡りをずっとしているという松本氏。着ているTシャツは扇湯オリジナルです〜
Q.島風呂隊結成のきっかけは?
A.扇湯を岩屋商店街のランドマークにしていけると思えたから。
リニューアルオープンから3年くらい前、女将さんから扇湯を閉める話を聞いて『やめんといて』『応援活動をします』と必死で留まってもらいました。銭湯好きの人たちに『誰かこんなこと手伝ってくれませんか〜』と声を掛けて集まって来てもらい震災で傷んだ所を修繕したりしていた。
自分たちで近くにお店を出したりして資金を貯め、2年半後にご主人と女将さんに扇湯を改造させてくださいと名乗り出たんです。
扇湯の再建にかかる費用は莫大で、ぼくらはこうした方がいいと思っても資金がなくては前にはすすめない。そうしている間も常連さんの高齢化などでお客さんはどんどん減っていく。
古いけど綺麗でかわいらしい銭湯にしたい。
やっとの思いで、扇湯のリニューアルに取り掛かりはじめた去年(2020年)の冬、お店が減る一方だった岩屋商店街に若い人達が新しいお店を出し始めたんです。そのSNS映えする商品にひかれて観光客が来るようになってきました。これを逃してはいけないとリニューアルを急いだ。女将さんのいう『古いけど綺麗でかわいらしい銭湯』になるように。
扇湯にはトイレが無かった。リニューアルで、新しくトイレを設置。照明に使っている古いランプは趣きがある。こんなところがとてもかわいい。
一期一会 松本氏とフェニックスの出会い
そんな応援活動をしていた時に島風呂隊のメンバーが別の銭湯で見つけた皆様石鹸の桶をSNSで発信し、それに気づいたフェニックスさんからコンタクトがあったのがきっかけで、今年(2021年)4月の扇湯リニューアルオープンの記念品として皆様石鹸をお客さんに配らせてもらいました。
松本氏そして扇湯さんとの 出会いのきっかけとなったのはこの赤い桶。この話はまた今度、詳しく掲載させていただこうと思います。
皆様石鹸をおみやげコーナーで販売
配布させてもらった皆様石鹸は、お客さんからの評判がよく『あの石けんはどこで売ってるの』って聞かれるので扇湯のおみやげコーナーで販売することにしました。島々の特産品やここでしか買えないオリジナルTシャツなど見てるだけでも楽しいですよ。
フロントのお土産コーナーに皆様石鹸とパンフレットを並べていただきました。皆様石鹸の上に貼っているのは、段ボール箱の中に入れている底パットです。ラクダのマークが目印です。
石けんと銭湯は切れない縁で結ばれているのかな
皆様石鹸の持っている色合いや文字の雰囲気と時代を感じさせる昭和レトロのかわいい感じが扇湯にしっくりときていると思います。銭湯と石鹸は本当にいい組み合わせで驚きました。
発売当時の皆様石鹸。昭和の暮らしの中で活躍していました。横にあるラクダの置物は皆様石鹸の記念品ですがとてもシュール。
銭湯は普段の暮らしにちょっとした旅気分を味わせてくれる場所。
明石海峡大橋が開通して島全体がドライブ観光の島になってしまった。当然運転する人はお酒が飲めませんね。それなら明石港から船で明石海峡大橋をくぐって淡路島の岩屋へ来るコースをおすすめしよう。
明石港と岩屋港間を運行するジェノバライン。船のデッキから間近に見る明石海峡大橋や壮快な波しぶきと潮風。その臨場感にひととき日常を忘れてしまいます。
扇湯のある岩屋は高いポテンシャルを秘めながら再開発から取り残された奇跡のような場所なんです。ダイナミックな橋をくぐったらタイムスリップをしたかのようなレトロな漁師町に立っている。これは、まさに非現実を味わえる旅そのもの。
以前、岩屋の町は漁港として賑わい新鮮な魚を売る魚屋も軒並みあったようです。昭和の色合いがそのままの街並みが妙に新鮮に見える。
明石港⛴→岩屋港 岩屋商店街 レトロ銭湯 扇湯
ぼくが扇湯にこだわったのはこの旅のコースが素晴らしいと思ったからです。扇湯は岩屋商店街のランドマークだと思っているのに肝心の扇湯が無くなっては話にならんと思って頑張っています。
岩屋港から歩いてすぐ。商店街をてくてく通り抜けていくと水色の洋館建ての扇湯が現れます。
そして『ふろやのよこっちょ』
扇湯の隣にある島風呂隊のお店『ふろやのよこっちょ』では淡路島産のレモン1個分を氷がわりに使った淡路島ハイボールやレモンスカッシュ、淡路島の地酒などを提供しています。週末に岩屋に来て、ゆっくりお風呂に入って、おいしいビールやハイボールを飲んで、後は船で帰る。船は結構遅くまで運行しているんですよ。1日で充分に旅気分を満喫できますよ。
『ふろやのよこっちょ』ではメンバーで味比べをして『これだ!』となった淡路島の平岡農園のレモンを使ったレモンスカッシュなどお楽しみメニューがいっぱいです。
緊急事態宣言下であまり『みんな来てー』とは言えなかった。当初予定していたイベントなどはなかなか出来ないけれどなんとか扇湯もリニューアルオープンに漕ぎ着け、『ふろやのよこっちょ』も開店することができました。島風呂隊もこれを機に法人化して、今で3ヶ月です。ここからが勝負です。
淡路島 岩屋 レトロ銭湯 扇湯 のこれからがとても楽しみです。私たちも石鹸というカタチでこれからも応援させていただきます。
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